1

耳をつんざく悲鳴


耳を覆い付くような轟銃が響く
身をすくめ
ただ脂汗を滴らせ
息を潜め
ただ
時が過ぎるのを待つ
心の底からわき上がる恐怖と戦い
心の底から苦しい逃避と戦い
ただの一人として生き返らない
この空間に身を置けば、
その視界にある静寂が
微かに笑った気がした

空に憧れ
空を目指した報いとばかりに
滑降する身をあざ笑っている

一人では寂しいだろう?
怖いであろう?
何故に
死に急ぐ?
何故に
飛び続けないのだ?

耳をつんざく悲鳴が聞こえる
仲間が縦横無尽と滑降する姿を
我の目は
冷静に空と
海と
何も見えない
「敵」へと向かう

耳をつんざく悲鳴を出して
泣こうとも
誰にも
もう
後ろ指など指されない
生きて帰ることは

無いのだから


2
天城越え


泣かないと決めた
泣けば、逃げるような気がした
負けるような
寂しかったけど
行かなきゃいけないと思った
もう
後戻りできないと思った
一人で歩く山道は怖かった
でも
あなたが居ると思えばこそ
歩いて行けた

峠を越えた
そこはまっすぐ海に続いていた
あなたのふるさとは見えなかったが
ここまで来れたことだけでも良かった気がする

天城を越える女が居たら
きっとどこかで騙されたんだろうと
哀れんでやってください


3
満開の桜が咲く


木枯らしが吹きすさび
身体はすでに凍結している
身を切って通り過ぎる風が
容赦なく傷口をその手で触れる

血は全て出した
身もこぼれているだろう
ただ
目だけが
しっかりと空を仰ぎ
ただ
しっかりと一羽の鳥を見ている

私ハ鳥ニナリタカッタンジャナイノカ?

心が潰れる
何人の命を欲しいと思った?
ただ一人を守れずに

心が消える
何人の全てを奪った?
ただ一人を振り返らせずに

サクラ?

いや
屍の熱き体に
雪が
降る


4
悲しいかな


悲しいかな
私は歌を歌えません

悲しいかな
私は愛を語れません

悲しいかな
あなたは
私を知らずに逝きました


5
記憶


遠い日の記憶をたどり
あなたに逢った
あなたは私を覚えてなかった
でも私は覚えている

その髪をいじる癖
その伏し目がちな目
その優しい笑顔

遠い日の記憶をたどり
あなたに逢えたから
もう放さない

あの日
手放してから
あなたを忘れたことなど無かった
もう一度逢いたい
今がだめなら
死んだ後に

やっと願いが叶う
もう
あなたを見捨てたりはしない
そんな世の中ではないのだ

戦火の中
捕らわれたあなたを救えなかった無念
捕らわれたあなたの
「生きよ」の叫び

もう、放さない
あの日のように
友を失いたくはない

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