メリー・クリスマス

松浦由香


12月24日

 ひなたはまだ熱がある身体を無理して、起き上がると、病院に向かった。
 今日はクリスマスだ。もし、イヴがサンタになっていれば、玲緒君のお母さんは元気になっているはずだ。
 病院にはいると、目を腫らしている玲緒君が居る。
「お母さん……。」
 それ以上聞けなかった。
 玲緒君は黙って俯き泣いていた。
 ひなたは慌ててイヴを捜した。
 外に出て、あちこち捜した。

 庭の植え込みに黒猫が居た。
「イヴ!」
 ひなたはその猫をつまみ上げた。
 でも、その猫は「にゃぁ」と泣くだけで、必要に人言語を話させようと振るひなたの手を引っ掻いて逃げていった。
「どういう?」
「本当はね、あの子の願いを叶えたかったの。」
 ひなたは振り返る。薄く透明な身体の、玲緒そっくりな女の人。それは間違いなく、玲緒のお母さんであり、幽霊だった。
「どうして?」
 ひなたは自然と涙が出てきた。
「貴方が好きなんだって。だから、ほんの少しだけ時間をもらったの。」
「時間?」
「天国に行く時間。玲緒のことを貴方に知ってもらいたかったから。貴方はいい子。優しいし、とってもいい子。だから、玲緒の願いを叶えたかったの。貴方が好きだっていう気持ちを。」
「でも、でも、玲緒君は、お母さんが元気になって欲しいって、イヴは、いいことをすればサンタになれるんでしょ? 全然いいことじゃないじゃない! 玲緒君、あんなに泣いてるよ。あんなに泣いているのに、いいことなの? 玲緒君の願いなの? ねぇ!」
 ひなたの絶叫が木霊し、空を揺すぶった。


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