メリー・クリスマス

松浦由香


12月25日

 

 ひなたは目を真っ赤にして公園に来ていた。
 玲緒から朝早くに呼び出されたのだ。
 逢いたくなかった。イヴの、結局あれは、玲緒君のお母さんだったらしい、その言葉は「玲緒のことを好きになってあげて」なんて、そんな言葉を残されたからだ。
 その所為で、ひなたは玲緒君を好きになったのだろうか? そう思うと、病院での玲緒君の涙を思いだしてしまう。
 ひなたはマフラーを引き上げて息を吐き出した。

 玲緒君が走ってきた。顔が満面の笑顔で、嬉しそうな顔をしている。昨日、お母さんが亡くなったというのに。
「おはよう。」
 玲緒君の声は高らかで、朗らかだった。ひなたはただ頷いた。
「母さんが生き返ったんだ。霊安室に運ぼうとしたら、ふっと手が動いて、昨日、お前が来てからすぐ。今は検査があってまだ病院だけど、後遺症もないし、元気だからって。」
「う、そう。」
 ひなたが呆然としている前で、玲緒は少し照れながら
「本当はさ、本当は、母さんも元気で、あと少ししか時間がないって言うときに何なんだけど、父さん、今日も仕事で、交代しなきゃいけなくってさ。それで。そんで、その、何というか。俺、秋葉原のことが、好きなんだ。だから、どうってわけじゃないけどさ。うん。そうなんだよ。」
 玲緒君は顔を紅潮させて笑った。
 ひなたは玲緒のお母さんのこと、その告白で、手で顔を覆って泣き出すほど嬉しかった。

「全く、クリスマスというのは厄介だよね。」
「ホント、ホント。」
「人間ってさぁ、欲張りなんだよ。」
「そうそう。」
「あれもこれもって頼んでさ。」
「そうそう。」
「人の気も知らないで、」
「そうそう。」
「そのくせ、感謝の言葉は、」
「ハッピー・クリスマス!」
「だけ、」
「そうだけ。」
「いやになっちゃうよな。」
「ホント、ホント。」
「でも、嬉しそうだな。」
「楽しそうだよね。」
「だから、辞められないか。」
「そうだね。」
「ハッピー・クリスマスが聞きたいからね。」
「聞きたいね。」
「そうだね。」
「ホント、ホント。」

The END


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