メリー・クリスマス
松浦由香
12月20日
二学期も残すところあと三日。今日は月曜日なのに授業はなくて、今までの図画工作で作った作品の返却や、習字の返却などで一日が終わっていく。
明日は大掃除だけで、明後日は終業式。
そしてイヴの言っていたクリスマスがくる。そう、イヴはまだ猫と少女の姿を繰り返し、でも、猫の方が最近多くなっている。まだ、ひなたの家にいる。
焦って、いいこと、いいこと。と言いながら家を歩き回っているが、どれをしても、イヴはサンタに変化した様子は全くないのだ。
放課後、明日は大掃除だから、今日の掃除はなく、教室はひっそりとしていた。
ひなたは忘れ物を取りに教室の戸を開けた。
教室には、玲緒君が自分の机に座って窓の方を見ていた。ひなたが入ってきたのを見て、慌てて顔を腕で擦った。
「何だよ。」
黒いランドセルを背負った玲緒君が、どきどきして真っ赤なひなたに声をかける。
「わ、忘れ物。」
ひなたは慌てて机に行き、机の中に入れていた縦笛を手にすると、そこに居たいと思う気持ちを押さえて戸まで行く。
「なぁ。サンタって、居るかな?」
玲緒の言葉にひなたは振り返る。
「ごめん。気にするな。帰れよ。」
「あ、うん。」
ひなたは戸に手を掛けたが、この歳でサンタの存在を問いかけるなど可笑しい。今家にいる黒猫は別にしても、そのサンタが何かをしてくれたところを見たことがないのだ。
「あの、あのね、私は、居ると思うよ。」
「じゃぁ、何で、母さんの病気が治んないんだ?」
玲緒君はそう言い放って、口をつぐみ、教室を飛び出していった。
母さんの病気?
ひなたは、玲緒君が出ていって全開となった扉を見つめた。
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