メリー・クリスマス

松浦由香


12月1日

 クリスマスが大嫌いで、いつも一人で居る、彼女の名前は、秋葉原 ひなた。格別な理由はないのだけど、ひなたは何故か好きではなかった。
 いつも一緒に居る親友の、涼子ちゃんは6年1組の、剛君と一緒に居ると言うし、葉月ちゃんは、6年3組の秀明君と一緒に居ると言っていた。
 つまり、ひなたは一人でクリスマスを過ごさなきゃ行けない、寂しい小学6年生なのだ。
 ひなたはランドセルをちょっと背負いなおし、ため息をこぼした。
「ああ。」
 その声のあと、ふいと顔を上げた目の前に、不思議な光景が目に飛び込んできた。
 さらさらの黒い髪の、見たことの無いほど、綺麗な女の子。ジャンパーの下に着た青いベストが妙に目を引き、少しだけ吊り目がなお人の気を引く。
 その彼がふっと黒猫に変わってしまった。
「う、っそう。」
 猫が素早くひなたの方を見た。ひなたは首をおもいっきり振って、この寒いときに冷や汗をかいてしまった。
「みた〜なぁ〜。」
 黒猫はそう言ってひなたの側に近付いてくる。ひなたは慌てて走り出し、家に駆け込んだ。家にいた母親と、先に帰ってきていた小四の弟が、今でおやつを食べているけど、ひなたはそれを無視するように部屋に入っていった。
 息を整えようと扉をゆっくりと閉めると、ひなたの部屋の、ひなたのベットの、その上で、先程の彼女が座っていた。
「何で逃げるかな?」
 何でというのはかなりな愚問だ。とひなたは思いながら、泣きそうな顔をして彼女を見た。
「あたしの名前は、イヴ。」
「外人?」
「さぁ、どっからそう呼ぶのか解らないわ。」
 イヴはそう言ってひなたの部屋を一巡した。
「殺風景な部屋ねぇ。まぁいいけど。さて、私の本性を見たから、貴方には手伝ってもらうわね。」
「手伝う?」
 ひなたはかなり泣きそうな声になっていた。かなり怖くて、気が動転していて、しかも、不思議なほど納得してしまう自分が、かなり情けないくらい【機転がきく】と思うからだ。
「そう、これでもあたし、サンタ見習いなのよ。」
「サンタ? サンタって、サンタクロースの?」
「そうよ、それ以外あって?」
 あって? と聞かれても、困るけど。ひなたは黙って俯き、ため息をこぼした。
「あ、夢だって思ってる? 甘いなぁ。これは現実なんだよ、ひなたちゃん。」
 ひなたは名前を呼ばれ、息を引き飲むほど驚いた。
「そこに書いているのは、ひなたでしょ?」
 イヴはひなたの鞄を指さす。ひなたはそれでばれたと思いながらも、抜け目無いイヴを見返した。
 イヴはくすくす笑って、自分の説明を始めた。

「あたしの名前は、イヴ。サンタ見習い。年は十二才。クリスマスの日までにいいことをすると、サンタになれるの。でもさ、今の世の中いいことなんか出来る環境じゃないし、いいことをしても、感謝されないんだよね。そう、ひなたの場合はさ、こうしてあたしが喋っちゃったから、無効なんだよ。で、いい事って言うのも差、色々と上限があってね、小さな親切じゃだめだし、かといって、大きすぎても、相手が感謝したり、相手が喜ばなかったら、結局はだめなんだよね。で、なかなか難しいって訳なのさ。解る?」
 イヴはそう言ってひなたを指さした。ひなたは首を傾げてイヴを見返す。
「いいことって、あたしはいいことだと思うことが、相手には全然そう思われないんだよね。何でだろう?」
「タイミングとか、その行為その物じゃない?」
「あら、言うじゃない?」
 イヴはひなたに微笑みかけて見上げた。
「じゃぁ、貴方はどう言うのがいいことだと思うの?」
「そう、いいことって、自分がいいことだって思ってないことじゃない?」
「それじゃぁ、意味無いじゃない、報告しなきゃいけないのに。」
 ひなたは黙って鞄を机に下ろしに行き、振り返りながら、その椅子に座った。
「それじゃぁ、おばあさんの荷物を持ってあげるとか、電車で席を譲ってあげるとか?」
「なるほど、いいことだね。他は? もしかしたら、それは小さな事だって言われるかも知れないからさぁ。」
「そ、そうだねぇ。」
 ひなたとイヴはその後も【いいこと】について話し合った。
 果たして、イヴはサンタになれるのでしょうか?


次  へ        図書館へ戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送