Trois sage

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§ 学校 


 谷崎 麻里亜は樋口 智紗希を指さした。しかもかなり怒っているようで震えて真っ赤である。
「あなたが樋口 智紗希ね!」
 麻里亜の言葉に白けた目だけで麻里亜を見ている智紗希。
「ちょいとごめん」
 周りの生徒が緊迫から遠ざかっている中、芥川 征紘が片手を挙げて二人の間に割って入った。
 高校の昼休み。のどかなこの一瞬。夏休み前の期末テストの結果が張り出された。各学年のトップ50位が載るこの掲示板前で、生徒会長である麻里亜の名前よりも智紗希のほうが上にあることに対して、麻里亜が怒っているのだ。今回に限り順位を抜かされたのならば、麻里亜だって怒りもしないだろうが、中高エレベーターのこの私立において、麻里亜は智紗希の上に立った事が無いのだ。その上、この五年と言う間一度たりとも会ったことが無い人物をようやく見つけ、それが以外にもごく普通な人間であるのが「更に」許されないのだ。
 麻里亜の家は代々政治家の家系にあって、成績は常に一番でなければならないと、まぁそんなくだらない家訓のある一家で育った麻里亜にとって、姿の見えない敵が今まさに目の前に居るのだから激昂もするであろう。
 だが、一方の智紗希は暢気な物だ。
 世間一般的収入の一家。サラリーマンの父親と、レジ打ちのパートに出ている母。兄とネコとで暮らしている。ミーハーでは決してなく、かといってヲタクの要素も無い。世間に疎いというか、冷静すぎて熱しないタイプだ。勉強は暇だからしている程度で、大学へ行く気も無ければ、褒める先生の言葉をうざったく感じるタイプである。
 そんな智紗希に麻里亜のことなど意識の欠片も無い。成績順位表が張り出されていることすら始めて知った。この通路―職員室の前を通り北舎と南舎を結んでいる場所は、唯一北舎で行われる音楽の授業へ行く限り使わない。だから、智紗希はこの五年で始めてその存在を知って、誰も彼もが智紗希の成績を知って居る理由を悟ったのだ。
 周りを見ずに割って入ってきた征紘はこの二人とも同じクラスではないが、同じ学年だ。ベスト50に何ぞ入るほど頭は良くないらしく、大笑いしながら「やっぱりないかぁ。先生間違えるんじゃないかってちょっと期待したけど」などと言っている。能天気で、楽天家だが、インターハイでは剣道部で大活躍している。
 
-----賢者様-----
 
 三人が顔をあわせたとき、目を瞑ってしまう様な光が床から発せられ、三人を包むと、三人は突如として現れた穴へと落ちていく。
「何よ、これ、どうなってんの!!!」
 麻里亜の絶叫が当たりに跳ね返り耳の奥に刺さるほど煩い。
「落ちてるみたい」
 暢気な征紘がそう言うと麻里亜は落ちながら征紘を睨む。この状況で睨んでも落ちていくことのほうが怖い。
「あ、街」
 冷静な智紗希が指を差す。
 そこに広がるのは街。なのだが、なんともロマンチックな可愛らしいレンガ作りの町並みだ。中世のヨーロッパの町並み、それが眼下に広がっている。
「即死、かな?」
 征紘の言葉に麻里亜が絶叫する。それに耳を塞ぐ智紗希と征紘。その瞬間、三人は点でばらばらに何処かに吹き飛ばされた。
 最後に見たときには、征紘は森のほうへ。麻里亜は市街地の側にある小高い岡上にある城の方へ。智紗希はそのまま農地へ落下していく。
 
 -----三人が目を覚ましたのはやはり点でばらばらな場所だった。
 

2 賢者降臨

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