プルデキシアの風に吹かれて
松浦 由香



*最近、ハーレークインに凝っていましてね、ちょいとそういう物を書きたくなりまして、歴史は好きだけどロマンスはお嫌いな方は、ご遠慮ください。えぇ、そのほうが良いですよ。あ、でも、濡れ場って言うんですか? あれは派手に甘美に演出してません。てか、出ない予定です。それを期待される方も、どうぞ、ご遠慮ください。では、それでも見てやろうという方、どうぞごゆっくり……。  猛暑の中でばてぎみにつきの 松浦 由香

 
 
1 序章
「元気ですか? あたしは元気! そっちは猛暑、猛暑と大騒ぎしてるだろうけど、こちらは猛暑どころじゃない。なんせ、エジプトの砂漠だもの。今日は久し振りに―四日ぶりに―ホテルに帰ってきました。ほとんどが遺跡の側のテントで寝泊りしてるからね。多分そう言うと、ぞっとすると言われそうだけど、私はとても幸せよ。歴史的にも優れた遺跡と評されているプルシェフ遺跡の発掘に関われるんですからね。エジプトに来て、発掘して、本当に思うわ。お父さん、お母さんありがとう。私のわがままを許してくれて。そして、生んでくれたことに感謝するわ。ただし、日本に帰って見合いをする気はないので、寂しくなるだろう四十を超えないと結婚はしないと諦めてね。兄さんところにあかちゃんがそろそろうまれるんじゃないかしら? 生まれたならきっと可愛い女の子だと思う。そんな気がするだけだけど、とにかく、私は今すごく幸せで、ここに居ることが無条件で嬉しいわ。   佐奈」
 
 この手紙が日本に届く二日前、どうした手違いからか佐奈が発掘をしていたプルシェフ遺跡が紛争攻撃の標的となった。遺跡群は隅々まで爆破され、爆炎の中からは発掘に関わっていた百数名の遺体が発見されたが、誰が誰だかまるで正体が解らない。だが、どう勘定をしても二人だけは行方不明だった。
 捜索は続けられたがまったくその痕跡はなく、誰が行方不明で、誰が死んだのかも解らぬまま彼らは合同埋葬され姿なきプルシェフ遺跡とともに土に眠った。
 
2 プルシェフ遺跡
 佐奈は発掘現場の土を丁寧に筆で掃いていた。もう遺跡の姿が見えてきて、刷毛では傷つけるからだ。細くよくしなる絵筆でそっとそっと撫でる。
 昼のサイレンがなり、佐奈は筆を置いて立ち上がると腰を伸ばした。
 日本の大学で考古学を専攻し、卒業前にプルシェフ遺跡が発見され、発掘作業にやってきた唯一の日本人だ。
 発掘に関わりたかった人は大勢居たらしいが、佐奈が選ばれた経緯はよく分からない。だが佐奈は幸せだった。昨日両親に手紙を書いたとおりだ。
 毎日土ぼこりにまみれ、風呂にも入れないがそれでも遺跡に触れ、その過去の証明に指先が触れるたびにドキドキしたし、めまいが起こるほどの想像で胸はいっぱいだった。
「この辺りは緑豊かだったようね」
「ピラミッド近辺よりも豊かなようだ」
「たくさんの作物、牧場のような飼育もしていたんじゃないかしら。そういう職業があったみたいだし」
 いろんな意見が飛び交う。
 二千年も昔に栄えた国プルデキシア。その存在が発見されたのは本当に偶然だった。もう出ないと思われていたミイラの発掘、そのミイラの棺にプルデキシア国王。と命が彫られていたのだ。
 ミイラの棺から鑑定して二千以上は昔にほんの短い間だけ栄えた国だと推測され、発掘が急がれ、遺跡群が発掘されたのが今年の初め。それはプルデキシア国王のミイラが発見されてから十年もあとのことだった。
 それだから考古学者たちの関心は常に大きく、非常に興奮していた。
 遺跡の隅々からこの辺りはとても豊饒な土地で、職業別にブロックを区切っていたようだということまで解った。
 そして佐奈が担当していたのは鍛冶屋街のようだ。鉄片がたくさん出てくる。
「にしても、この国は何で滅びたんだろうか。ある日突然という感じを受けるが、皆はいかがだろうか?」
 アメリカの考古学の権威、ジェフリーズ博士がそう切り出した。
 確かにそうなのだ。生き続けていた証のまま忽然と消えたようなそんな印象を受ける遺跡なのだ。
 まるで、家財道具を一切合財置き去りにし、着の身着のまま夜逃げしたあとのような乱雑に遺品が出てくるのだ。
「奇襲攻撃を受けた?」
「それなばら、焼け野原にされ土に返されるだろう。そんな様子はない」
「じゃぁ、地震か、」
「それならば地盤の倒壊があってよさそうだが、二千年前にこの辺りでの地震はない」
 多数の遺跡品。多くの謎。それが佐奈にとっての魅力だった。
 これほどミステリアスな遺跡はとんとなかった。
 ピラミッドを最初に本で見たときの興奮を思い出す。それだから考古学者になったのだ。
パズルを仕上げようとすればするだけ、パズルのピースの大きさが当てはまらない。
―なんて手ごわいんでしょう―
 それだから、佐奈は幸せだった。簡単に符合し、裏づけされるものが好きではないのだ。込み入って毛糸を解く快感がとても好きだった。
 昼が済み、一番暑い時間でもある12から15時までは休憩になっている。焦らなくても、19時でさえ明るいのだから作業は出来る。
 それは一時過ぎだった。
 遺跡群内でもそれぞれに休憩をとっている姿が見られる。遺跡を枕にしているものも居れば、美術学生だといっていた彼はスケッチをしている。
 佐奈は遺跡が一望できる遺跡群の裏にある丘に登った。丘と言ってもその地盤は砂だから靴の中や靴下は気持ちが悪いほどじゃりじゃりしていた。
 見晴らしはよかった。すっと眼下ににぎわう町が見える。これは佐奈が好きなイマジネーションだ。
 丘に近い場所にあるのは門だ。そう、この町は城壁に囲まれた城下なのだ。十数キロ四方に走る壁。大きな門が四方に向いていて、その門や塀の直ぐ横にも民家は立ち並んでいたようだ。街の中央には噴水があったような跡。そしてそれからいくつもの水路が放射状に延びそれが地区を区切っていたと考えられる。
 噴水広場と名付けられた広場から北にあって、南に向かって城は立っていたようだ。ちょうどこの丘を背にしてある。城から広場までが一番大きな通りが通っている。
 大通りを挟んで東側は大きな施設があったような広く間切りされた跡があるが、あれが何の跡なとかはまだ調査中だ。だが佐奈は思う。あれは公共浴場とか、サロンといった社交場だったろうと。
 その反対側、大通りの西側にも大きく間仕切りされた場所があるが、そこは兵士の宿舎だったのではないかと想像が出来る。ちょうどその辺りに鍛冶屋のコロニーが存在しているし、鏃やら、鎧の留め金などが発見されたことでもそれだと推測できる。
 城前の大通り、広場そして南の門までの通り沿いはたぶん商家が並んでいたはずだ。雑貨、八百屋だの、魚屋だのの原型があったかもしれない。きれいな布を売っている店もあったかもしれない。
 どんな服を着て、どんな色をしていたのだろ。
 想像しただけでドキドキする。あの中に人は居た。あの中で人は存在し、生活を、未来を紡いでいたのだ。
 佐奈は深く息を吸い込む。
 乾燥した土の匂いしかしない。でも確かにここには緑があって、人は活気付いていたのだ。
 佐奈がふと人影を見た気がして右に首を振った。
「アルバート?」
 発掘作業員の一人で、ジェフリーズ博士と同じ大学の学生だ。卒業論文のために来たと言っていたが、佐奈はどうも好きなタイプではなかった。いつも誰かを監視するような、酷く人の目を気にするくせに、物言いは命令的で好戦的だ。
 だが、そんな彼がここにやってくる意味がない。佐奈はここが好きで休憩の度に上がっていると笑われるほどここに居ることが多いが、彼は違う。いつもなら自分のテントにこもり―アメリカから持ってきた個室のような小さなテントだ―パソコンをやっている。彼女とメールとチャットで忙しいんだ。休憩中まで詮索するなと誰かに怒鳴っていた。
 そんな彼がここに上るのに三十分も要して来るだろうか?
 佐奈の胸に何かが浮かんだ。漠然としすぎるもやのような物で、悪寒とも、悪い予感とも不安とも焦燥とも違う妙なものだ。
 佐奈はアルバートが行った場所に行く。
 大きな岩が二つ並んでいる場所、佐奈はここを双子岩の広場と名付けていた場所に来たがアルバートの姿はなかった。だが確かに彼はここに来たのだ。
 ごとごとという音がする。
 佐奈が岩に近づくと、意外なことに岩の下に穴が開いていて微かな光が見える。
 佐奈は腰のポケットに入れていたペンライトをつけて穴に入る。
 考古学上、暗がりに入り込む可能性は高い、掘り進むうちに暗くなるときもある。そのときようにペンライトや、宇宙食の一回分はポケットに忍ばせている。
 岩の下の穴は四つんばいになり、大股で五歩分くらいで広い空間に出た。
 佐奈は暗がりにライトを当てる。
 ずっと奥に光がある。
 佐奈は光=アルバートの跡を追いかける。
 洞窟の中はただの土の通路だった。誰が何のために彫ったのか解らないが、でもこのトンネルはかなり昔に掘られたものだ。地層が古い。
 佐奈は息苦しさに顔をしかめた。酸素が薄くなっている。そう感じたときだった。
「ア、アルバート」
 ようやくアルバートに追いついて声を掛けた。
 アルバートはぞっとするほどの顔で振り返り、ライトを佐奈に向けた。
「何をしている?」
「それはこっちの台詞だわ、どうしてこんな洞窟を?」
 佐奈は聞き返してアルバートの手にしたダイナマイトを見た。
「な、何をしようというの?」
「何? 簡単さ、制裁だよ、制裁。ここはどこだかわかるかい? 槌の暗がりをいくつも曲がりくねってやってきたから方向が解らなくなっているだろうけどね、ここはあの遺跡群の真正面にある大岩の側だよ」
 この閉鎖的な場所で佐奈が逃げられないと解っているからなのか、無口で陰湿なアルバートは陰湿すぎる饒舌振りを見せて笑った。
「ここを爆破すれば王家は無くなる。これは制裁なんだ!」
 アルバートがダイナマイトに着火した。
 佐奈は耳を塞ぎしゃがみこんだ。逃げるなどという考えは浮かばなかった。もう、死ぬのだ。としか考え付かなかったのだ。
 激しい音と熱と風で佐奈の体が持ち上がったのは記憶している。だが、その後の事はまるで無い。火傷した筈の体に痛みはないし、熱さも感じない。熱でたぶん内臓器官も火傷しているのに、苦痛じゃない。
 ただただ柔らかなものに包まりそよぐ風だけが頬を撫でる。
 そうか、天国というのは痛みを感じないから。
 佐奈はそう思って寝返りをうとうとしてこの世のものとも思えない激痛を感じた。
 息苦しさに吐き出したものは血に混じった石だった。
 ばらばらという音と、煙。目をしっかりと開ければアルバートは岩の下敷きになって事切れていた。
 佐奈は口を塞ぎ辺りを見回した。
 微かに光が漏れている。壁が薄い場所のようだ。
 佐奈はそこに体を動かす。足に走る激痛。見れば土を被っている。そこに石が当たりいくつもの内出血をしていると解ったのはそれから三日後だ。ただそのときは見当もつかない痛みに足を引きづり光の漏れている場所を一生懸命に掘るだけだった。
 手で土を掻く。指先の痛みが消えていく。爪が割れ痛みが麻痺しているのだろう。
 息苦しい。酸素が無くなり、アルバートの死体が真後ろから監視するこんな閉鎖的な場所から出たい。
「助けて、助けて、お願い!」
 佐奈が懇親の力で叫び土壁を押した瞬間、土壁は壊れ、ばらばらと振り、目の前には燦々と降り注ぐ太陽。芝生の匂いが現れた。
「助けて……」
 佐奈はその光を顔に受けるとそのまま倒れた。
 
3 白鳳神殿
 佐奈はゆっくりと目を開けた。
 天井は高く白い石造り。この地方でよく見られる石だ。天蓋からシルクらしい布が垂れている。掛けられていたのは布で、シルクだ。枕元で芳しく漂っているのはどこかで嗅いだ気がするものだがどこのなんなのか解らない。
 ゆっくりと体を起こす。激痛で声を上げ直ぐに蹲る。
「無理はいけません」
 柔らかい声だ。
 佐奈が声の方を見れば中年だが随分ときれいな女性が椅子に座っていた。白い布が巻いているだけの服を器用に着て、色付きの石―宝石ではなくて、ターコイズといったもののようだ―の飾りをつけている。
「あの、こ、ここは?」
「私の部屋です」
 佐奈は部屋を見渡した。付き人らしい女性は胸を隠しては居ない。腰に布を巻き、首飾りでかろうじて胸が時々隠れるくらいだ。
 佐奈は婦人を見た。
「事情が、よく、飲み込めないんです。でも……私が思うのに、ここは随分とお金持ちのようですけど、」
「そうね、国一番の。ここは、プロデキシアの王都プルシェフの王宮の中。私は、」
 佐奈は急に咳き込んだ。
 突拍子の無い言葉だが、多分事実だろう。いや、事実であるから余計に突拍子も無く、信じがたく、息がつまり、気道に血が逆流してしまったのだ。
 血を吐き出し、付き人の女が背中をさする。
 咳はしばらく続き、その間、女は背中をさすり、夫人は黙っていた。
「すみません。……あなたはこの国の王妃様。ということですか?」
 夫人はゆっくりと頷いた。
 佐奈は起こしていた体をベットに沈めた。
 夢を見ているにしては痛みは激しく現実的で、匂いも、そしてその存在さえも現実過ぎる。だが、二千年も前に滅んだ国に居るなど、いくら歴史好きで、高台に上がって遺跡群を眺めてはその暮らしぶりを想像していたにしても、この現実味は甚だおかしい。
 そうか、痛み止めか何かを打たれ幻影を見ているのか、それとも、天国に来たからこそ前世に遡れたのかもしれない。
 望んでいた「この世界に住みたい」という欲求が叶ったのだ。
 佐奈は何とか体を起こし、王妃を見た。
「すみません、私のようなものに、ベットを貸してもらって、」
「傷を負った鳥をむざむざ死なすようなペテオスのようなまねはしませんわ」
 ペテオス―古代エジプトにおいて軍事力に長けた国家。ではプロデキシア崩壊はペテオスの侵攻にあったからなのだろうか?
「ありがとうございます」
「それよりも、あなたは随分と変わった格好をしていたわね、」
 そう言うと付き人が佐奈の服を持ってきた。
「順に剥ぎ取るのに苦労しました。これ、解くことが出来なかったから切りましたよ」
 そう言ったのはボタンだった。
 誰だったかそういえばそういう事を言っていた気がする。ボタンを発明した人は服飾業界きっての天才なんだ。と。石に穴を開け糸を通し、それをもう一方に穴を開けた布をかぶせる。そんな簡単なことだけど、それを発明できたのはずっと後世なのだ。ボタンとポケット、これはすばらしい人智の集結なのだ。だからここの人が知らなくても当然なのだ。
 布をただ巻き、石ころを通した糸で縛るだけの服を着ているものには、それはそれは奇妙なものなのだろう。
「胸当てをしていたけど、子供が居るの?」
「え?」
 佐奈は自分の胸を触った。
 ブラジャーも切られて他の服と一緒にある。
「いいえ、独身です」
「ではなぜ胸を隠す? 胸を隠すのは既婚者と、子供に母乳をやる女だけです。なぜ?」
「……、わ、私の国ではそうするんです。胸は神聖なもので、夫となるもの以外に見せてはいけないことになっているんです」
 佐奈はそう言って苦笑いを浮かべた。
 今の日本、いや世界中にあるあのアダルト本に載っている女性たちは、あれはどうなるんだろうと。
「そう、そういう風習が……。まぁ、いろいろな人が居るというのは、ペテオスの存在を知り解っていますからいろいろあって面白い。だがこんなにしてしまったものは、」
「もう、着れませんね」
 佐奈は苦笑いを浮かべ、良くぞ切り刻んだ。と思える服の残骸を見た。
「その代わり、私の更紗をあげましょう」
 そう言って出してきた布は薄い水色を帯びていた。
「きれい」
「あなたのその首に巻いていたものであなたはこの色が好きなのだろうと思って」
 佐奈は頷いた。
 あれは母が買ってくれたスカーフだ。暑さしのぎにスカーフを巻くなど日本では考えられなかったが、これが実に重宝する。吸水性も撥水性もいいシルクは以外に汗取りになる。日本では首にタオルは欠かせないが、ここではそれはやめてスカーフを巻いていたのだ。それに、昔の映画でハリウッドの女優と砂漠の青年との恋愛もので、女優は首にスカーフを巻いていた。実に安易だが、これを巻いて居れば素敵な出会いもあるかもしれない。そう思っていたのだ。
 王妃はスカーフだけは切らずにすんだと佐奈に手渡しベットに腰をかけた。
「あなたのことが聞きたいの。ジョゼルが連れて来たときには、土の中から出てきたとしか言わなかったから」
 佐奈は眉をしかめ王妃を見上げた。
「土? 私はトンネルを通って、必死でそのトンネルの壁を砕いたんです。あったでしょ? トンネルが、」
 王妃が首をかしげ、側の女に確かめてくるように言う。
「そんな、だって、私、……双子岩の広場から来たのに、」
 付き人は無かったと告げた。
 佐奈は頭に激痛が走って片手で押さえる。
 (無い? 無いとはどういうことだ? 天国に来るためのトンネルは無い? いや、天国に来るのに土から出てきたと言うのも奇妙だ、はすの池か何かからすっと浮かんでくるものじゃないのか? お釈迦様がその縁を歩いていて、蜘蛛の糸をたらすんじゃないのか? いったい、どうなってるんだろう?)
 と考えれば考えるだけ頭痛が酷くなる。
「無理をしないで、頭を打ったのよ。誰かは解らないけどあなたはあそこに埋められ、運良く這い出してきた。そういうことなんでしょう?」
 王妃の言葉に佐奈は頷けなかった。そういう問題じゃないのだ。どうも、不思議だ。夢でこれほどのリアルが存在するのだろうか? それとも、今までも夢とはこれほどリアルだったのを、まったく覚えていないだけなのだろうか。それならば、わざわざここに居る理由を考える必要は無い気がする。適当に話をあわせていればいいじゃないか。奴隷としてつながれているわけではないのだから。
 佐奈が頭を抑えているので付き人が佐奈をベットに横にさせ、王妃は佐奈の手を握ってさすってくれた。
「私娘が欲しかったの。だからね、それは嬉しいのよ。だからあなたが苦しむ姿は見たくないの。無理して思い出さなくて良いわよ」
 王妃はそう言って微笑んだ。王妃と言っても細いのは多分それほど高カロリーなものが無いからなのだろう。少しだけふっくらしているがぜんぜん細身できれいな人だ。
 佐奈の頬を撫で、佐奈はそれで眠りについた。
 夢の中でも寝るらしい。
 そう思いながら目を覚まし、傷が治ってきたのはそれから三日後、部屋を歩けるようになったのはさらに二日後だった。
「血色もよくなってきたし、随分と歩く力もついたわね」
「時々足とか、頭痛はしますけど、まったく問題ないです」
 佐奈はそう言って微笑んだ。
「にしても、その格好」
 王妃が眉を細めたのは佐奈の服だ。
 佐奈は王妃にもらった更紗をパレオのように胸から巻き首の後ろできつく結んだ。そしてスカーフで腰を縛っていた。
「こういう文化です。お許しください」
 佐奈はそう言って首をすくめる。
「まぁ、しょうがないわね。そう、気分がよければ城を案内しますよ。そろそろもう少し歩くのも良いでしょう?」
「そうですね、ぜひ、」
 佐奈と王妃は連れ立って部屋を出た。
 王妃の部屋というのは十もあるらしく、そのうちでも佐奈が出てきた南の庭に近い部屋が佐奈の部屋になっている。そこは本殿と言うべき所から渡り廊下を渡って離れになっている。王妃が昼寝をするためにある部屋だと言うだけあってとても涼しい。
 その渡り廊下を渡り終えると露天の入浴場があって、混浴らしく男女が大喜びをしながら入っていた。
「おっと……」
 佐奈は目線をそらした。混浴ならば隠す場所は隠せよ。そう思ってしまうほどかなりオープンだ。つまり素っ裸で入っているのだ。
「まぁ、佐奈、あなたの国は奇妙ね、風呂は裸で入るでしょう?」
「入りますよ、でも男女は別だし、混浴ならば水着を着ます」
 王妃は、変な習慣。と一言言って先を歩いた。
 入浴場を過ぎるときれいな庭に出た。いろんな人がいろんなことをしている。話をしている人、詩の朗読を聞かせている人、絵を描いている人、文化的なことをしている。
「あの人たちも王族の人ですか?」
 佐奈が聞くと王妃は首を振り、
「いいえ、ただの貴族よ。あれが仕事なの。貴族のね」
 と歩いた。あれには関心は無いらしい。
 だが、プロデキシアではすでに貴族の文化的発展はすごかったのだ。詩の朗読、絵画、それらは豊かさや政治的閉塞から生まれてきているだけに、すごい発見だ。ピラミッドを作ったクフ王の時代にこんな豊かな趣味が存在していたかどうか、あったかもしれないがこれほど色鮮やかではなかっただろう。
 (夢だから、こんな想像をしているのね)
 佐奈は小さく笑いながら王妃の後をついていった。
「ここが食事の間。もう少ししたらあなたもここまで出てきて一緒に食べましょうね。あら、ガイル」
 王妃がそう言った先に黒々とした髪に、背が高くて大柄な男が立っていた。
 ガイルは軽く会釈をして佐奈を見た。
「長男のガイルソトス。ほとんどがガイルと呼んでいるわ」
「佐奈です」
「変わった名前だ」
 ガイルはそう言って佐奈をじっくりと見た。
 佐奈が眉をしかめていると、
「母上!」
 甲高い声の男の子が入ってきた。
「何? その女、新しい乳母?」
「う、乳母ぁ?」
 見たところ十歳以上の少年は佐奈を値踏みするようにじろじろと見た。
「腰なんか貧弱だね、胸だって無いし、何よりなんだ、その格好、その髪、短くて男のようだ。へんなの」
 少年の言葉に王妃は咳を一つして、
「三男のアドヴィ。彼女は学者なのよ。乳母じゃないわ」
「学者? 女で? ふん、生意気な」
 アドヴィはそう言うと手に持っていた棒で佐奈の腰を叩いた。
「アドヴィ!」
 王妃が叫ぶのと佐奈がその棒を掴み奪い上げたのとは同時だった。
「女を馬鹿にしたけど、あんたはその女から生まれてきたんでしょ。つまりあんたはあんた自身で自分が愚かな女から生まれてきたと言ったも同じ。女に暴言を吐くなんて、何億年と早いわよ。解った!」
 佐奈の剣幕にアドヴィは目を見開いた。多分、この子に怒鳴るものは居ないのだろう。三男で甘やかされた皇子様。ある意味ではかわいそうな物だが、セクハラには真っ向から対立する。佐奈の目の色を見てアドヴィは苦虫をつぶした顔をした。
「口の悪い女だ」
 佐奈が振り返るとガイルともアドヴィとも違う青みがかった黒色の髪、緑を含んだ黒玉の目の青年が入ってきた。
「次男のジョゼディス。皆ジョゼルと呼んでいるわ。そう、あなたを見つけたのはこの子よ」
 佐奈はジョゼルを見上げた。細い面立ちで本当に二人とは様子が違う。一人だけ兵士の格好をしている。
「ジョゼルは衛兵隊長だから」
「次男なのに?」
 王妃は微笑んだだけだが、似ていない兄弟を見れば母親が違うことぐらい解る。
「助けていただきありがとうございます。でも、侮辱とそれは別物ですから」
「気の強い女はこの国では役に立たぬ」
「別に結構です。私は学者ですもの。それさえあればまったく必要ないですもの」
「僕はいやだよ、こんな女を嫁にするの」
「嫁?」
「えぇ、この子達の誰かの嫁になってもらおうと思って」
「冗談でしょう? 私が? 無理ですよ、それに、見てください、皆さん嫌がってますから」
 佐奈はそう言って首を振り、王妃から顔をそむけた先にあるものを見つけて息を呑んだ。
「空を支えるもの」
 佐奈はそこにある石造に近づいた。
 石の台座に乗った羽の生えた犬のような形の像を見上げて佐奈は呼吸を整える。
「よく知ってますね」
「えぇ、この犬は天国への使者とされて棺にはこの犬のモチーフがありますよね。天国と来世へと連れて行くといわれている犬。お前はここにこうやって居たのね。……、触って良いですか?」
 王妃が不思議そうに頷くと、佐奈はその足に額をつけて触れた。
 石のざらついた詰めたい触感しかなかったが、このモチーフを発見しこれの意味をそうだと推測したのは佐奈なのだ。
「逢えるなんて、嬉しい」
 佐奈の言葉にアドヴィは呆れ帰り部屋を出て行った。
「あ、さっきは済みませんでした」
 佐奈は石造から離れて王妃に向き合う。
「あの子はどうしてもわがままに育ってしまって、」
「いくらなんでも皇子にあれは無かったですよね、罰を受けて当然なのに、」
「いいのよ。それだけのことをしたのだから。それよりもあなたはいろいろと調べたいようね、」
「えぇ、たくさん」
「体の調子を崩さない程度になさい。この、ジョゼルをつれて」
 佐奈はしばらく考えた後で頷いた。
 (監視、だよね。まぁ、ごく普通のことだ)
 佐奈はジョゼルを見上げて首をすくめた。
 佐奈はひとまず天を支えるもの=スクヴィデ・ブラハを見つめた。観察や調査ではなくじっと見つめあげるのだ。
「首、痛くなってきた」
 そう言って首を回し、そばで黙って立っているジョゼルを見たが、それよりも黙って付き添っている付き人の娘に目が向いた。
「ねぇ、彼女は何で居るの?」
 佐奈がジョゼルに聞くと、ジョゼルは娘のほうを見た。
「お前付きの娘だ。何か用があればあの娘に頼めばいい」
「用があればって?」
「喉が渇いた。腹が減った。疲れた。暑い、何でも」
「……贅沢ね」
「それがあの女の仕事だ」
「彼女。せめて、女じゃなくて彼女と言ったら? どこまでも女を馬鹿にしてるわねあなたたち一族って」
「お前のところの男は違うのか?」
 佐奈はふと頑固に母親に「おい」の一言で片付ける父親の姿を思い出した。
「大差、無いかも……。まぁ、私はそういう言い方をする人が嫌いなだけ。きれいな人が誰かを馬鹿にしている姿ってスマートじゃないもの」
「スマート、ねぇ」
 ジョゼルの小ばかにしたような物言いにむっときたが佐奈は相手をせずに、柱にもたれてスクヴィデ・ブラハを見上げた。
「私があれを見つけたのは広場の噴水のところだったの。最初は王家の紋章かと思ったけれど、お墓、たぶん集合墓地ね、あそこの入り口にも同じものを発見したときからこの子はきっと死者の使いなんだって、エジプトのアヌビス神や古代ローマのオルクスのようなものだろうと。死者を監視して来世に繋ぐもの。あの翼は冥府を自由に飛ぶことが出来る。あれがメスなのはきっと冥府での母親代わりなんだろうとね。実物が見れて嬉しいわ。こんなに尊厳ある姿をしていたなんて思わなかった。私たちにはモチーフでしか見られないから」
 佐奈のこぼした言葉にジョゼルが眉をひそめて近づき、腕をつかんで小声で聞いた。
「どういう意味だ? お前はおかしなことばかりを言う。まるで亡き者を見られたような、」
 佐奈ははっとして首を振った。―この国は滅びる。それもどうしてだかまるで解らない。ある日突然忽然と。自然災害や何かではなく、人はこの国から全て消え、何かが起きてこの国は消える。戦争でもなく、飢餓でもなく。それは人骨が見つからないことで立証できる。そう、この国は無いのだ―など言えない。
「遠く離れた国よ、私の国は、海を渡ってさらにずっとずっと東にある国。そんなところじゃぁ棺桶ぐらいしかもってこれないじゃない。違う?」
 佐奈は笑ったがジョゼルの不審そうな目は疑ったままだ。
 (この人は、意外にも学問が得意そうだ。この時代には不向きの感じを受ける)それがジョゼルの瞳に宿った不信感から読み取った佐奈の意見だった。
 部屋に戻りため息をつくと付き人の娘がお茶を出した。山査(サンザシ)のお茶だと言った。少し酸っぱくてほろ甘いアセロラのような味が口に広がる。すっきりとし胸のもやもやが解けていく感じがする。
「ありがとう」
 佐奈が笑顔で器を返すと使いの娘は首を傾げた。
「どうか、しました?」
「いえ、初めてなもので」
「何が?」
「お礼を言われるの」
「……何かをしてもらったらお礼を言うのは普通だわ。そりゃ、王族の方が言うとは思わないけど、私は王族じゃないし。それにあなたとは同じ年ぐらいだと思うの。友達になれると思うし」
 使いの娘は首を振り、滅相も無いと俯いた。
 (下僕根性見たり)今日本でとにかく流行っているメイドさんもこういう甲斐甲斐しさで好まれるんだろうなぁ。などと思いながら、
「名前、なんていうの? 名前を呼ばなきゃなかなか不都合がいっぱい出てくると思うのよね。私は佐奈。で良いから」
「はい、佐奈様。私は、ゴルジョエの娘でございます」
「はい? 何々の娘? じゃ無くて、あなたの名前よ」
「それが、私の名前です」
 佐奈は眉をひそめ思い出そうと天井を見上げた。
 そうだ、まだ文字の解読が進んでいないのだ。誰の何々のと言うものが解らないのだ、女に名前が無かったとすることも、あっても当たり前なのかもしれない。
 佐奈は頷き彼女を見た後で、
「しばらくは名前は良いわ」
 としか言えなかった。
 佐奈はきれいに身支度をさせられ始めて夕食の場所へと出て行った。
 座は直に座る様だったがほとんどが寝そべって食べているのかこぼしているのか喋りながら食べていた。
 佐奈が入ってきて誰もが佐奈のほうを見た。
 佐奈も一同を見た。眉をひそめると案内された場所に正座をした。
「サナ、窮屈な座り方はよしたら?」
 王妃の言葉に上座を見れば王妃も寝そべっていた。隣にひげを生やした男が国王だろう。同じように寝そべっている。
「食事をいただくときのルールです。……私の国の。食べ物は人の手を八十八回伝って出来ている感謝に値するものです礼を尽くして食べる。それが私の国の教えです。それ―寝そべって―だけは出来ません」
 サナはそう言って手を合わせると葉っぱの器から肉の塊を手づかみして持ち上げた。掬う物も、刺す物もないいじょう手で食べるのだろうが、掴み上げたその肉の塊が何で解るか解ったとき、息を詰まらせ隣を見た。
 ジョゼルが旨そうにそれを口に入れ咀嚼している。
「大好物なのかしら? これ?」
「嫌いではないね」
「では、食べて」
 佐奈はジョゼルの器にそれを落とした。
「何で? すごく旨いのに」
「イモリでしょ?」
「ヤモリだよ」
「一緒よ、そんな、……ごめんなさい、私には食べられないものなので」
 佐奈は冷や汗の出た額を拭う。
「散々礼を尽くせとか言っていたのに」
 隣のジョゼルを見る。足を投げ出し気楽そうに据わっているジョゼルに顔を背け、
「いろいろな文化が違うのよ、食事だって違うわ。贅沢は言わないわよ、牛肉が食べたいとか、豚肉が良いとか、そんなことは言わない。でも、昆虫や爬虫類はいや。見るのが嫌なのにそれを口に入れるなんてごめんだわ」
 佐奈は頭を押さえた。
「まだ、体の調子がはっきり戻っていませんから、お部屋に、お連れいたします」
 付き人の娘が恐る恐ると声を出し佐奈の肩に触れた。
「ありがとう。私も引っ込んだほうが言いと思うわ。せっかく用意していただいたのに申し訳ございません」
 佐奈は深々と頭を下げると付き人の娘と一緒に部屋を出た。
 部屋に戻ると直ぐにベットに倒れこみ、
「ここではあれを食べるのね、思い出しても嫌……」
 佐奈は手を洗っていないことに気付き慌てて起き上がって頭の激痛に顔をしかめる。
 付き人の娘が手荒い桶を持ってきた。
「ありがとう。あなたは何でもかんでも気がきくのね。何とかの娘とか、私の付き人の娘という名前じゃなく、ここだけのことよ。よそで言っちゃぁ規律だの、なんだのとやっかみや反感を買うかもしれないからね、私が名前をつけてあげる。あなたはデア・ディーア。穀物と、成長の女神の名前よ。でももし聞かれたなら私の国で使い間という意味だとおっしゃい。デア。これがあなたの名前よ」
「デア・ディーア。ありがとうございますサナ様。私の一生の主」
 佐奈は首をすくめた。
 名前を与えるものと与えられたもの。主従。主上と部下。王と下僕。名前を与えてよかったのだろうか? 佐奈は思ったが使いの娘=デアの慶び様を見て取り消すことは出来なかった。
「お食事を持ってきましょう。イモリは無しで、喉越しのいいものを」
 デアはそう言って部屋を出て行った。
 佐奈は深くため息を落とし、ふと外を見た。
 柱が六本立っているが壁は無い。風の強く吹くときだけ木の板を置くのだと言ってまるっきり明け透けの部屋から外を見ようが、外と変わらないのだが、それでも床の石敷きの外はやはり外だ。
 そしてその頭上にはまるで見たこともないほど大きく、明るく、はっきりとした月が見える。
 エジプトに来て月を見てあまりのきれいさに驚いたが、ここはそれ以上だ。
 佐奈は月に誘われるようにして外に出た。
 庭には石の腰掛がある。ベンチと言うほど立派ではなく、岩と言うほど不恰好ではないそれに腰をかける。
 夜風が髪を撫でる。肩を少し過ぎた程度でも風にはなびく。頬をくすぐる髪を抑え佐奈は月を仰ぐ。
「そうして居れば、勿論一言も喋らず、反抗的な目もしなければだが、いい女には見える。その巻き布と髪さえどうにかすればだが」
「えらく注文の多い褒め言葉ね」
 佐奈は声の方を見た。
 ジョゼルが水差しとグラスを持って近づいてきた。
「お酒はいらないわ」
「水だ。気分が悪そうだったからね、イモリに」
「本当に嫌な性格ね、あなたって」
 佐奈は笑いながら隣に座るように石を叩いた。
 ジョゼルはそこに片足を上げてグラスに水を入れて佐奈に差し出した。佐奈はそれを受け取り口元に運んで、
「これ、お酒じゃない」
「水だ。薄めている」
「でもお酒よ。……でも一杯だけなら付き合うわ」
 佐奈の言葉にジョゼルは微笑みグラスを軽くあげて口に運んだ。
「それで、明日はどうする?」
「明日、そうねぇ。噴水を見に行きたいわ」
「涸れた噴水か」
 佐奈はジョゼルを見上げた。
「あなたって、本当に頭がいい人ね。ここで言う頭がいい人って言うのはちょっと違う意味よ。他の人だってそれぞれいろんな勉強はしているだろうし、その道では利口でしょうけど、あなたほどじゃないわ。じゃないと私の言葉に疑問を持ったり、噴水の話を憶えていたりはしないものね」
 佐奈は小さく笑い水を口に含んだ。かすかに遠くのほうでアルコールが舌に刺さる。飲めなくはないが旨いものでもない。グラスを膝に下ろしそれを弄びながら佐奈は月を仰ぐ。
「あなたに言って理解するかしら? 私がずっとずっと未来から来たものだと」
「未来?」
「明日や、明後日の様な次元ではなくて、数え切れない、気の遠くなるような、千も二千も未来から来たと」
「……、この国は滅んでいるのか?」
「二千年もの時があれば人は変わる。戦争の上手な国が出てくる、武器だって変わってくる。ただそれだけ」
「ないのか、プロデキシアは?」
 佐奈は小さく頷いた。
「あなたって、本当に頭がいい人ね」
 暫くしてから佐奈が口を開いた。
「多分、他の人ならば頭が可笑しい女の戯言だと話を合わしながらも馬鹿にするでしょうけど、あなたは違う。ショックを受けてる。それは理解しているってことでしょ? 私が未来から来たことを、そして、その未来にこの国がないことを」
 佐奈はジョゼルを見上げる。
「でもね、すごく不思議なのよこの国は、ある日突然忽然と消えたの。その理由がまるで解らないの」
「どういうことだ?」
「私は考古学者―古いものを探して発掘したりする仕事よ。まだ学生だから学者の卵なんだけど、正確には―この国の噴水が発掘され、あちこちの遺跡が発見されたわ。宮殿跡も、この街全てが。でも戦争で朽ちた跡はなかった。どこも焼かれず、遺骨も無く、荒らされていないの。天災とも違う。まるで理由の解らない謎なの。誰も彼もがあっという間に姿を消したあと国が滅んだ。としか考えられない倒壊なの。その崩壊の謎を突き止めるのが私たちの仕事だった。遺跡を掘り起こし、何らかの手がかりがあるだろうと発掘していた。それが……、それが?」
 佐奈は激しい頭痛に頭を押さえる。なぜあのトンネルに来たのかまるで解らない。思い出せない。そこだけ記憶がなくなっている? 眉をしかめ思い出そうとするが頭痛が激しく襲い、吐き気を催す。
「付き人の娘、」
 デアがさっと走り寄って来た。いつ帰ってきたのか解らないが、デアは暫くそこに居て会話を聞いていたはずだ。
「横にさせる」
 ジョゼルの言葉に頷き、デアを支えるジョゼルの後について部屋へと入った。
「また、話を聞きに来よう。今日はそのくらいにでもしていないと、本当に頭が割れてしまうぞ」
「私もそう思うわ」
 佐奈がそう言うとジョゼルはデアの方を見て頷いて出て行った。
「冷たいもので頭を冷やしたいのだけど、」
「解りました、」
 デアは布をぬらしに向かった。
 佐奈はベットから見上げれる月を見上げた。
 今日は後悔ばかりしている。デアと名付けたこと、ジョゼルに真相を話したこと。よかったのだろうか? これで未来が変わったら、いや、これは夢だった。夢ならば変えて未来永劫続けて見せるのもいいじゃないか。これだけ豊かな国はそうそう無いはずだ。エジプトや古代ローマよりも数段に豊かで穏やかな国。未来に残したら、争いごとは無いのかもしれない。
 などと御伽噺のような空想をしながら佐奈の目蓋は重く閉じた。
 
4 戦勝祝いの噴水
 ジョゼルと佐奈は噴水へとやってきた。
 水は豊かに噴出している。子供たちがその水で水浴びをしている。その周りで母親たちが雑談をしている。井戸端会議は古今東西同じなのだろう。
 佐奈は噴水を覗き込んだ。
 佐奈の奇妙な格好と、見た事のない顔に町中が見ていることなど構わなかった。佐奈の興味は直ぐに噴水に向けられていたのだ。
 噴水構造の中でも一番原始的だがもっとも有効な構造をしているように見られる。そして水が吹き上がっている中央を挟む形で東西にスクヴィデ・プラハ=天を支えるもののモチーフがはめ込まれている。
 佐奈は水面を見つめながら一周する。
 あの穴は水が水路へと流れるものだとは解っていたが、それとは別に壁に開いていたのは水路へと水を落とす滝のような、それも見た目で涼を得て、噴水の絵の一つなのだ。そしてそこに栓をすればいいように石の杭がそこに落ちている。面白いものだ。
 あの噴水等の絵は佐奈がクリーニングしたものだ。根元から折れて倒れていたものを復元した時にははっきりとした絵が判らなかったが、あれは水を司っている女神か妖精なのだろう。そういうモチーフが描かれているのはエジプトやローマに影響を受けていたのか、それとも彼らがこの国の影響を受けていたのか、どちらにしてもこの絵も見事だ。
「噴水ごときにすでに昼だ。随分と飽きないものだな、」
「飽きる? 飽きないわ。きれいだし、何よりも興味深いわ。見ているだけでドキドキする」
 書き止めておきたいがこの時代にはパピルスもまだ無いし、目で見て覚えこまなければならないのだ。手帳も無く、携帯さえないのだから。
「記し残しておくことが出来るならばこんなには見ないわ。出来ないから、見つめて憶えるのよ」
 佐奈はそう言ってジョゼルの方を見た。
 青みのかかった髪がふわっと風に撫でられ揺れる。彫りの深い浅黒い肌。どこか遠くを見ているような緑の混じった目。
 佐奈の視線に気付いて見下ろしてきた目に吸い込まれそうになる。
「もう少し見てるわ。暇ならどこかで休んでていいわよ。私にはあの娘が居るから」
 そう言って少しはずれで待機しているデアのほうを指差した。
 ジョゼルは首をすくめ噴水の縁に腰をかけた。
 佐奈はジョゼルの姿の見えないほうへとゆっくりと歩く。
 見事な彫刻。それはルネサンスや華やかなりし貴族彫刻ではない。戦勝を祝い国王を讃える歌のような彫刻だ。
「戦勝祝いなのね」
「先の国王、つまり爺様なんだけど、その人がルギナスの戦いで勝った祝いに作ったんだ」
 いつの間にか隣に来ていたジョゼルに驚きながら佐奈は噴水をじっと見つめる。
「後世には残らないものだがね」
 佐奈はきっとジョゼルを睨みあげる。
「誰にも言ってないさ。言ったところで信じないだろう。ただ、そう聞かされた俺の内でいろんなものが無駄に感じられてきただけさ」
 ジョゼルは小さく小さくつぶやいた。
「言うべきではなかったわね。すごく後悔してる」
 ジョゼルは何も言わずにくるりと先に一蹴するために歩いて行った。
 水が永代にも流れると言わんばかりに湛え、受ける場所の並々とある水。植えられている木の葉の匂い。人々の生活臭。あの遺跡に無いものが存在している。
 佐奈は街を見た。
 人が行き交い、自分を見るために立ち止まっているが息づき、活力と精気に満ちている。あの中に枯れた遺跡が未来だと信じられない。
 彼らはどこへ行ったのか? 彼らはなぜ居なくなったのか? 戦うべき相手の襲撃はまるで聞こえない。地震、水害もまるでない。何が起こったのだろう?
 佐奈は首を振り城へ帰ることにする。
 
 佐奈は庭の岩の上に座っていた。風がよく通り、涼しくて月の直下に当たるのも好きだった。静かな夜だ。
 デアが水を入れてきた。椅子に座りそれを受け取りのどの奥へと追いやる。
「調べなくてはいけないの。でもどうすればいいのかしら? どこを調べる? スクヴィデ・ブラハ、戦勝の噴水。大通り、南門。あとは、どこ?」
 佐奈は遺跡として残っている場所をつぶやいた。このどれかにその答えがあると漠然とした感が働いた。というものの、遺跡として残るくらいだから強固であって、それを書き記していたはずだと思ったのだ。
 南門に何もなければここがどうやって滅んだかなどまるで解らない。国を挙げてピクニックへ行くなどとんでもなく考えられない。ではどこへ移動した? モーゼのような誘導者が居たはずだ。どこかへ連れて行った。どこへ?
「お前の主人の勉強家振りには脱帽するな」
 佐奈は声の主ジョゼルがやってきた方を見た。
「あ」
 佐奈は小さく叫んで閃いた。
「もしかして、くじか何かで決まったの? あなたたち三兄弟の嫁をくじで決め、あなたが当たった。だから夜のこんな時分に現われるの?」
 ジョゼルはデアに首をすくめると、
「ガイルと性格が合えば彼が来る。アドヴィは真っ向から君を嫌っている。そして俺は君の仕事の手伝いを仰せ付かっている。明日の予定を相談しようにも、城に帰ってきたら疲れただの、夕飯だので会話するのはいつもこの時分だ。それだけのことだ」
「あ、そう……そうね、確かに今しか話す時間は無いわね」
 佐奈はけたけた笑いひざを抱えた。
「随分と考えていたが?」
「あとは南門ぐらいしか思いつかないから。何かヒントとなるものが存在するならば、あそこだけ」
「残るのか、あれは」
「えぇ」
 ジョゼルは頷きため息をついた。
「もしかしたら防げるかもしれないと思ってるの。私。大それた考えであるけれど、でももし何らかのことが起こる前に全員が退避していたのなら、その根源が防げるかもしれない。そう思うの。だから、」
 ジョゼルは頷き、
「言っている事は解った。明日は早めに出て南門へ行こう。行きながら他の場所も思い出すかもしれない」
 佐奈が頷くとジョゼルも同じく頷いた。
 翌日。
 佐奈は大きく頭を振った。柱に手をつき、それらしき物が無いと告げる。
 佐奈に絶望感が襲う。崩壊することは確かだ。どうやって? どうして? なぜ人は無傷で逃げ延びたのか? それを知るすべだけが無い。
 木陰になったころ佐奈は椅子の上に座っていた。
「胸は隠すが足は隠さないのか? 変な風習だ」
 ジョゼルの声に裾をたくし上げて見えている足を見た。
「太い足で悪かったわね、それより引っ張りまわして何の成果も無くてごめんなさい」
 ジョゼルは首をすくめ隣に座った。
「あら、今日は片足を上げるんじゃないのね」
 佐奈はくすくす笑いながら空を仰いで眉をしかめた。
「何、あれ?」
 佐奈が指差すほうを見てジョゼルは「山」と簡素に答えた。
「そうじゃないわよ。あそこにあるのは小高い丘で、双子岩があるのよ。そうよ、その双子岩の下からここにトンネルがあったのよ」
「双子岩? 随分と下の腹に大岩が二つあるが、それのことか?」
「行きましょう、奇妙よ。あんな大きな山は無かったもの」
 佐奈はジョゼルを急き立て馬を走らせた。山のある程度までは馬で登れたが、それからは歩くしかなかった。
 未来ここは砂漠のど真ん中だが、今はこんなに緑があって根の張った大木が存在している。
 佐奈は木を掴みよじ登る。あっという間に足元を取られ地面に激突する寸前でジョゼルに抱きとめられる。
「ありがとう……」
 佐奈はするりと抜け出し山を登る。
 息が切れる前、軽くだるさを感じるころに少しの広場と、双子岩がある開けた場所に来た。
「ここよ、あの岩よ。ほら、洞窟……」
 ジョゼルが敏感に佐奈の手を引き茂みに引き込んだ。
「な、何?」
 ジョゼルは佐奈の口を塞ぎ、身動きが取れないように抱きしめた。
 がさがさという葉音とともに青年が現われた。
 ―アルバート!―
 男は岩の洞窟の入り口を奇妙に叩いた。すると中から男が現われた。
「遅かったな、」
「変な女が現われて、ジョゼル隊長と町をうろつき出したんだ。奇妙な女で、何かを探ってるようだがまるでそれが解らなくってな」
「ジョゼル隊長が動いてるのはまずいな」
「あぁ、早いところ作戦を決行すべきだな」
「そうだな、あと少しで行きそうだから、次の満月、ちょうど四日後だ」
「解った。三日後に俺は町を出る」
「あぁ、そうしろ、俺たちも仕掛けたら直ぐに出れるよう馬の手はずを整える」
 男たちは腕につけていた腕輪を打ち合わせ
「朱の復讐の為に」
 と言葉を残して男は消えた。
 佐奈のがたがたと震える体をジョゼルが抱きしめている。
 城に帰って佐奈は部屋に置き去りにされた。
 ジョゼルが部屋を訪れたのはいつものように夜半の時間だった。
「朱の復讐。あれは噴水でわが国が破ったルギナスの言葉で、朱は血を意味している。血をかけてわが国に復讐をという意味だ」
「四日後に何かが起こるのね。そう、あの山を崩すのよ。地すべり、雪崩れは町を覆いつくす。それを止める手立ては無いの? あの人たちをふんじばる?」
 ジョゼルは首を振った。
「あの後で兵を向かわせてあの中に居たものは捕まえた。あの中は凄かった」
 ジョゼルはその光景が目に焼きついているらしく深く息をしてから、
「子供が飲まず食わずで働かされていた。地面に杭を打ち少しずつ地面を広げていく。そして空洞を作っていた。思いのほか空洞は大きかった。息苦しくて、何人もの子供がそのまま死んでいて、異臭が凄かった」
「そんな……」
「戦争の結果はみんなこうだ。綺麗事ですむことは無い」
「そうね」
 佐奈は頷いた。
「でもこれで安全になったのよね?」
 首を傾げた佐奈にジョゼルは頷いた。
「この国は永遠に残る」
 それは同時に未来を変えたことになる。
 考古学的に言えば捏造したことになるのかもしれない。佐奈はそんなことをぼんやりと思った。
 その目がどこか遠くを見てとらえどころが無かったからなのか、ジョゼルは佐奈の頬に手を添わした。
「何?」
 佐奈はその手を打ち払いジョゼルを見返した。
「すまない、」
 顔を背けたジョゼルに佐奈も顔を背ける。
 突然地鳴りが響き佐奈とジョゼルは山を見た。
 山から小石や砂が落ちている。
「嘘でしょ、止めたはずなのに、」
「町に逃げた男は捕まえられなかった」
「じゃぁ、一人で?」
「やけになれば人間なんでもできるもんだ」
「退避しなきゃ。一刻も早く。とにかく早く!」
 佐奈の絶叫にも増して地鳴りで出てきた人々に雪崩を告げ逃げるように促す。人々が着替えるまもなく手当たりしだいの家財道具を持って逃げる姿はまさに狂気だった。
 夜が白々と明けること大半の人が城の門から出ていた。だがもっと遠くへ、遠くへという指示で人々は故郷を後ろに見ながら進んだ。
 佐奈はスクヴィデ・ブラハの陰に隠れていた。
 城はもぬけの殻になり物音がしない。
 佐奈は静かな城をゆっくり歩いた。
「今度会うときにはここはもう遺跡になっているのよね。この柱も、あの庭も砂に埋もれている。でも、向こうで絶対に見つけ出してあげるわ。憶えているもの、あなたたちが居たことを」
 自分の部屋の薄いカーテンが風に揺れる。
「穴……、トンネルが通じている。さっきまで無かったのに、帰るのね、私」
 いつも座っていた岩の側に大きな穴が開いていてずっと向こうにいけるトンネルがある。あのかすかに光る向こうが未来だ。
「サナ」
 佐奈が顔を上げるとジョゼルが馬に乗っていた。
「どうしたの、逃げなきゃ」
「帰るのか?」
「そのよう。ここで一生を終えるのかと思っていたけど、帰るようになっているみたい」
 ジョゼルが馬から下りた。
「早く行って、逃げなきゃ」
「未来で逢おう。私は転生を約束する」
「スクヴィデ・プラハに乗って」
 ジョゼルは佐奈を抱きしめ体以上に熱い唇を押し付けた。
 今まで以上の地鳴りが轟いた。
 佐奈はジョゼルを押しやり、
「早く、私も行くわ」
 と頷き穴へと体を屈めた。
「きっと未来で」
 ジョゼルも馬に跨り頷きあうとジョゼルは馬を駆け出し、佐奈は穴にもぐった。
 空を覆いつくすほどの轟音がした途端、佐奈の体は土に押しつぶされた。
 
5 帰還
 佐奈は体の端々にびっしりと痛みを感じ、唸りながらも目を開けようとしていた。
 最初に回復したのは音だ。心電機械の音。酸素吸入している自分の呼吸音。あとは無い。次に回復したのは嗅覚だ。匂いは甘くいい匂いがする。心電機械、酸素吸入からいって消毒液の臭いを思わせたが、まるでそんな臭いは無い。次は感触だ。指先に触れるベットはやわらかく、病院のベットではない。そしてやっと、頭が目を開けようと努力していた。
 ゆっくりと目を開けて見えたのは光をいっぱいに取り込んだ窓にレースのカーテン。
 頭を動かすと、白を貴重にした調度品が並び、ベット脇にはデアが座っていた。
「お気づきになられたんですね、痛みとか、解りますか?」
 頷くだけで声も出ない。
「喉は砂焼けだろうと、少しすれば直ると思います。お医者様をお呼びしましたので、お待ちくださいね」
 彼女の格好はあの時とはまるで違っていた。ごく普通のメイドの服だ。紺色のスカート、白いシャツ。扉が開き医者が入ってきた。
 骨には異常は無いが窒息寸前だったのと、爆風で多少熱波を受けているらしく左側がひりひりする。
 佐奈は双子岩に居たから爆撃を間逃れたようだ。そしてアルバートは遺跡密輸をしていたようであの岩の下に遺跡を隠していたらしい。爆撃は本当に不幸な事故だったのだ。
 五日が過ぎ、佐奈の体にあった痛みは取れていった。でもあの親切だったジェフリーズ博士や発掘作業員が居なくなった現実をどうしても受け入れられなかった。
 ぼんやりとカーテンが揺れるのを見つめる。
 デアに似ている娘は、デアと名乗った。祖先が女の子には必ずサナとデアとをつけるようにしたため自分はデアなのだと言った。そして彼女は毎日側に座って佐奈の看病をしてくれている。
「あ……、ねぇ、私はなぜここに居るのかしら? 爆撃があって逃げ延びたのなら、私は尋問されるのじゃない?」
「はい、ですが、身元ははっきりしていましたし、伯爵様が取り計らったようで、」
「伯爵?」
「はい、ここの主です」
 デアは誇らしげにそういった。
「お礼を、言わなくてはいけないわね、」
 カーテンが吹き揺れ、佐奈は庭を見た。
「ジョゼル!」
 佐奈はベットから飛び出し庭へと出た。
 庭には誰も居なくて、木々が多い茂り、庭の向こうは近代的なビル郡が見える。
 佐奈は側のベンチに座る。
 風が過ぎ、髪を押さえる。
「あの時もそうやって髪を押さえていたな」
 佐奈が声のほうに振り向けばジョゼルが立っていた。あの当時と違うのはスーツを着ているところだ。
 佐奈は噴出し、ジョゼルを見つめる。
「あなたがスーツを着ているなんて思いもよらなかった」
「裸のほうがよかった?」
「裸は一度としてみていないわ」
 佐奈の言葉にジョゼルは頷く。
「あなたが伯爵?」
「あぁ」
「助けてくれてありがとう。逢えるとは思わなかったけれど」
「この国に来て直ぐ、国王に面会にきたときから私は気付いていた。お前が気付かなかっただけだ」
「……そう、待たせたのね、私」
 佐奈の言葉にジョゼルは微笑み、佐奈の頬に手を当てた。
「あの時こうしたかった。今となっては出来ないこと。望むことも出来ない。あの城の中で、あの時代の中で、私はあなたを望んだはずなのに、」
「遺跡はもう無くなった。跡形も無く。スクヴィデ・ブラハは奇怪な模様として残っているが、あれももう居なくなるだろう。今では大変不気味なものだと思われている」
「時代の流れには逆らえなかった。あの国は、ほんの一瞬歴史の端に輝いていたもの。私が干渉出来るものじゃなかった。でも、ほんの一時でも触れてみることが出来たのだから、私は幸せ。でも、明日にはこれを全て忘れてしまう気がする。今だって、あの柱の形を、思い、出せないもの」
 佐奈は顔を覆った。
 夢は幻。そこに残らないもの。ずっと消えないものは無くて、あっという間に朽ちていく。それが夢。それが事実。
 ジョゼルが佐奈を抱きしめた。
「私が居る。それは確かだ」
 佐奈もジョゼルを抱きしめ返した。温かさが触れる。あの時離した全てを感じれる気がする。もう、手放したくは無い。だから、佐奈はこの国を選んだ。
 太陽に近く、水に遠い国。
 佐奈はジョゼディス伯爵と一生をともにした―。



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