浜辺
   
 夏が来た。
 半袖を着て、外に出てみる。焼けるように強い太陽。他が見えないほど眩しくて、でも、私はこの季節が好き。
 焼けたアスファルトを歩き、大好きな場所に向かう。潮の匂いと、波の音がするそこには、夏を楽しむ人で沸きかえっている。
 カップルかぁ。
 一人でそれを眺めている。
「一人?」
 おや? あたしにナンパ? 
 見上げたけど、逆光の彼は眩しすぎて見えない。
「一人?」
 もう一度聞かれて私は振り返る。
「居るように見える?」
「いいや。」
 彼は横に座ってきた。
「泳がないの?」
「今日はね。ただ、海を見に来ただけだから。」
 彼は何度か頷いて、そして私にその顔を見せてくれた。意外にかっこよくて、何で私なんかに? って思うような人。遊んでそうと言えば語弊があるけど、でもそう言うタイプ。もてそうな顔立ちをしている。
 その点、私は、鼻ぺちゃで、胸だってそれと同じくあるのかないのか定かじゃない。そして何より、綺麗や、可愛いこではない。少なくても自分でよく解っている。
「友達と来てるの?」
「いいや、俺も一人。」
「ナンパ?」
「は? 否、全然その気なし。ただ、夏は、海かなって。」
 私は何度か頷いた。
「夏は、海だよ。」
 私と彼は暫く海を眺めていた。あまりにも眩しい海を見ていた所為で、視界がおかしくて、目を閉じると、ふいに横顔に視線を感じる。
「何?」
「泣いてるのかと思った。」
「目、痛くならない? 眩しくて。」
 彼は頷いた。横にいても別に違和感がないし、取り立てて不思議な空間ではなかった。
 夕暮れも迫ると、流石にカップルも居なくなり、私たちはずっと海を見ていた。
「帰らなきゃね。」
 彼は頷いたけど、立ち上がりそうもなかった。
 私は立ち上がり、腰の砂を叩いた。
「また、明日来る?」
「え?」
「俺、ここに来るからさ。また、」
「ナンパだよ、それって。」
「んー、じゃぁ、予定変更かな?」
 私が失笑して頷いたのを、彼は嬉しそうな顔をした。
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