ファインダー
   
 空を切り取る。
 地面を切り取る。
 色を抜き取る。
 それが俺の仕事。
 生きているものの、その瞬間を撮り、それを俺流に表現する。
 だから、これが俺の以上表現。
 鳩が舞い上がった公園。弁当はいつものコンビニのおにぎり。体に悪い。とお袋に確か昨日言われた気がする。そう言われたあとだから、なんだか、更に味気なく感じる。
「お裾分けしましょうか?」
 俺が隣を見れば、よくこの公園で一人で自前の弁当を食べているOLだ。
「いつもコンビニおにぎりでしょ? ずっと気になっていて。彼女に悪いなって思ったけど。これ、どうぞ。」
 捨てれる紙パック弁当箱、重量感はたっぷりあって、思わず、俺は手を出していた。
「おかしな人。」
 彼女はそう言って隣りに座りってきた。
「おかしいのは、そっちじゃない?」
「でも、受け取ったのもどうかしら?」
 俺は黙ってそれを見ていた。
「食べてください。美味しいから。」
 俺は少し頭を下げてそれを開ける。おかずばかりの弁当箱。
「どうせ、おにぎりがあると思って。」
 彼女はそう言って笑って、自前の弁当を頬張った。
「この近く?」
「ええ、目の前の会社。」
「そうか。」
「カメラマン、ですよね?」
「ああ、風景専門の、売れない写真家。」
「売れないんですか?」
「売れないね。スクープ記事じゃなきゃね。」
「そうか。やっぱりそう言うのって、汚職とか、売春とか?」
「さぁね、俺には興味ないから。」
「良かった。」
 彼女は笑って俺の方を見た。
「良かった?」
「だって、見掛けは、お金のためなら不法侵入しそうだから。」
 俺は軽く笑った。
 弁当はうまかった。彼女が自慢するように、本当に旨かった。
「明日も、ここですよね?」
「また、作ってきてくれるの?」
 彼女は返事の変わりに笑顔を向けてくれた。
 名前も知らない、ただのOL。その彼女が何故俺に声をかけてくれるのだろう。
 それから彼女とは、写真を見せて普通に話せる。でも、彼女の昼休み時間だけの関係が続いた。
 ある日、公園に早く来た俺は、公園中央にファインダーを構えていた。何気なく、そう、レンズの曇りチェックのつもりで。
 彼女だ! 
 ファインダー内に移る彼女、手を振って走ってくる姿。
 俺は夢中になって押していた。彼女を切り取っていた。
「やだ、フィルムもったいないですよ。あ、入ってないのかしら?」
 彼女はそう言って横に座った。
「名前、まだ、聞いてなかったよね。」
 俺が言いにくくそう言うと、彼女は空に手を翳し「青井 澄香」と書いた。
 そして俺に向けて微笑む顔を、俺は一番いいアングルでファインダーに捕らえた。
 目を閉じていても、はっきりと解る、君の笑顔と、君のその顔が。
Scene top
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送