桜が舞っている。風もなんだか桃色をしている。自然と笑顔がこぼれてくる。
「転校生を紹介します。まずは、女の子、都築 遥香さん。遥香さんはお父さんのお仕事の都合で、この町に来ました。みなさん、仲良くしましょうね。」
「都築 遥香です。」
 遥香ちゃんは頭を下げた。
 一同で拍手をする。
「そして、森田 健君。健君もお父さんのお仕事の関係でこの町に来ました。みなさん、仲良くしてあげてね。」
 拍手が上がり、健君はただ頭を下げた。
「じゃぁ、遥香ちゃんは、この列の後ろのやっちゃんの隣りに座ってね。」
 そう言われてやっちゃんこと、安田 淳君が手を振った。少しまる太りしているが、気は優しくて力持ちな子だ。
「それで、健君は、速水さんの隣ね。」
 早鐘を打つ胸。私はゆっくりと手を挙げた。
 健君は黙って近付いてきて、隣の机に鞄を下ろすと、やっと、小さく、「よろしくな。」と私にだけ言った。
 私も、小さな声で「よろしくね。」と言った。
 それからもう、七年。私たちはいつも隣同士にいる。別に話もしないし、何もないんだけども、ずっと、ずっと隣にいる。
「おい、速水。」
 横を向けば、かなり顔立ちも精悍になって、少し、ニキビが目立つ顔の健君が紙をさしだしている。
「何?」
「先生からのプリント。」
「あ、ありがとう。」
 どんなプリントだ? と思いながら、折り畳まれた藁半紙を広げると、小さな紙に、「また一緒だな。」って書いてあった。
 知らないでしょうけどね、私、健君のことがずっと好きだったんだよ。だから、高校も同じところを受けたの。
 知らないでしょうけどね、私、健君も好きなんじゃないかしらって、思ってたの。
 だって、ずっと、隣りに座ってくれていたもの。
 卒業写真の遠足での光景でも、修学旅行でも、健君は、いつも私の隣りに座っていた。まるで、机がくっついているように。

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