ソファー
   
 真夜中の時報をテレビが告げた。もう十二時だ。
「遅い。」
 呟く声がだらけてしまう。
 明日も早く起きなきゃ行けないのに、あいつは何をしているのだろう。
 彼女はソファーに座り直した。目の前の机には、スナック菓子の小袋が一個置いてある。後方の食卓机には、夕飯が一善だけ布巾を掛けて置いてある。
 彼女はため息をもらした。
 このところ帰りが遅い訳じゃない。たまたま今日に限って遅いだけだ。期末試験も終わったことだし、あとは呑気に夏休みを待つだけだから、きっと、友達と遊びに行っているのだろう。
 カラオケかな? ゲーセンかな? でも、あいつは行って楽しいのだろうか?
 漫画も、テレビも嫌いなあいつが、サッカーしか取り柄のない、あいつが、そんなところに行って、楽しいのだろうか? まぁ、付き合いだろう。
 つい先日、それこそ、期末試験のど真ん中が奴の誕生日だった。毎年の事ながら祝いはしない。それが、付き合い始めたときに決めた約束だから。
 でも、今日ぐらいは、料理をしこたま用意してみたんだが、「もう、夜中だよ。」
 彼女は膝を抱え、時計を恨めしそうに見る。
 先に寝ようか。もう、眠いし。
 そう思っていた頃、玄関が開き、妙なテンションで彼が帰ってきた。
「ただいま。起きてたんだ。」
 そう言って鞄をすぐ食卓机の椅子に置いた。そしてその手で、布巾を除けて黙った。
「お帰り。食事、してきたんでしょ? 明日の朝ご飯にするから。お休み。」
 彼女はそれを言うと、黙って部屋に入った。
 ああ、かなり不機嫌に言ってしまった。あんなに楽しそうなんだから、少しは話を聞いてやっても良かったかな? と思ったが、彼女は布団をはぐって片足をベットに入れていた。
 そこで気付くことが偉いのか、そのまま放っていれば良かったのか、彼女は慌てて部屋を出て、先程いたソファーに近付く。
「ありがとな。」
 もうすっかり見つかって、もうすっかり包みの原型もなく、それは彼の手にあった。
「ただのプレゼント。」
「解ってる。嬉しいよ。」
 彼は笑顔を向けて微笑む。
 手にしているたわいのない万年筆は、彼が好きなメーカーもので、かなり高かった。何だって、ペン如きで、一万も二万もする? と思ったが、つい、きっとそう言う笑顔をしてくれるだろうと思って、買ってしまったのだ。
「不可抗力で買ったの。」
「解ってる。ありがとう。そんでもって、ごめんな。待ってたのにさ。」
「平気だよ、祝ってくれたんでしょ、友達。」
「一応。お前も連れてくれば良かったのにって言われたけど、冗談じゃない。お前を連れて行って、目移りされたら大事だから。」
「誰が?」
 彼が彼女を指さす。
 あり得るわけないでしょ。彼女は呆れて翻り、あんた以外が目に入るものですか。と思いながら部屋に入った。

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