桜舞い散る中に

 
 達端 みかげと出会ったのは入学式を終えて帰ろうとしていた校庭だった。桜の木が有名な高校の校庭にはいくつもの桜の木が植えてあった。そして入学式に合わしたかのように満開の花をつけていて、風に踊るようにひらりひらりと地面を桜色に染めていた。
 澪は同じ中学から来た数人と校庭にやってきた。母親はすでに帰っていた。皆が違うクラスになったことを悲観したり、同じクラスだと歓ぶ中、澪は桜の木を見上げている生徒を見つけた。それがみかげだった。
 ゆるく髪を二つに分けて三つ編みをしていた。制服がしっくりこない格好が妙な印象を与えた。
 澪は引き込まれるようにしてみかげの隣になった。
「何、してるの?」
 みかげはゆっくりと澪のほうを見た。そして満面の笑みを浮かべ、
「森沢 澪さん? いやぁ、やっぱり桜っていいことが起きるのね」
 みかげの言葉の意味が解らず眉をしかめる澪にみかげは微笑んで言う。
「あたしあなたをずっと見てたの。体育館に行く前から。美人だなぁって、綺麗だなぁって。だからすぐに名前覚えちゃったの。仲良くなりたいなって思って。この学校の桜って皆綺麗でしょ? その中でもこの木が一番綺麗で、見てたの。すごく気分がよくなってきて、あなたのことを思ったの。そしたら声を掛けられちゃった」
 みかげは首をすくめて照れた。
 澪はみかげに引き込まれていた。初めて会った人からこんな印象を聞かされるなんて初めてだったから。唖然とも、呆然とも言いがたいほだつ身体。
「桜はね、その下に死体が埋まってるんだって、その血を吸うから綺麗な花を咲かせるんだって……でもそういう話しがある花は綺麗過ぎるから。その綺麗さに魂を吸い取られるから。まるでいやな僻みだけど、でも、本当に綺麗」
 みかげはそういって桜を見上げた。
「そうね」
 澪はそういってみかげに微笑んだ。みかげは澪をじっと見ていたがすぐに満面の笑みを浮かべた。
「あたし、達端 みかげ。変わった名前でしょ?」
 と手を差し出した。
 みかげが変わっているのは名前だけじゃない。行動もおかしい。
 特に記憶力にかけては何かしらの病気でもあるのじゃないかと勘ぐってしまうほどに乏しい。
 だけどみかげは素直だった。毒されないと言うか、我関せずと言うか、わが道を行く人だった。
 澪にはそれが危なっかしくて、頼もしくて、好きだった。
 津田 晃平と付き合いだしてからみかげが変わっていくのを側で見ているのが嫌な時期もあった。
 似合わない化粧、強すぎる香水。晃平に無理に合わそうとして壊れていく身体。
「辞めたら? 友達甲斐が無いと思うかもしれないけど、みかげがみかげじゃなくなってるよ」
 澪の言葉にみかげは微笑み、
「解ってる。でもね、あたしこーへーが好きなんだ」
 と言ったのはつい最近のことだった。
 無理にでも引き離すべきだった。後悔、先に立たず。
 晃平も思っていたのだ。みかげの想いが重たすぎることを。そう思い始めたころから徐々に二人の関係がおかしくなっていってた。
 晃平が冷たいと悩むようになって、晃平と話そうと付きまとうようになればなるだけ晃平はみかげを突き放していく。
 悪循環が、みかげを傷つけていく。
 過食と拒食を繰り返すみかげの身体は日に日に細くやつれ、頬はこけていく。アイラインを引いた眼だけがぎょろりと浮き出ているようだった。
 卒業式間近のある日、サッカ−部の部室に呼び出されたみかげは、そこで晃平が後輩の子とキスをしているのを目撃する。彼女は制服を着ていなかったかもしれない。そこまでは覚えていないのだろう。
 みかげは走ってひと気の無い場所へと向かった。澪はその経緯を見ていたから後をつけ、体育館裏でそっと二人抱き合った。
 澪の中にいい加減な男への潔癖が生まれた瞬間だ。
 晃平は別れるためにあんな演出をして見せた。県外に行くから? みかげが嫌いになったから? それにしてはみかげを傷つけすぎた。
 でもみかげはひとしきり泣くと、
「ありがとね、澪がいてくれたから、あたし、立ち直れそうよ。晃平は優しいから、あたしのこと嫌いになったと言えなくて、酷い奴だと思わせようとしたんだよね」
 澪の眉間にしわがよる。
「何故そう考える? あいつは浮気をしたんだよ? みかげにひどいことをしたじゃない」
 何度もそういったが、みかげは首を振るだけだった。
 
 卒業式。
 明後日から澪はフランスの大学へ行く。みかげとは当分離れ離れになる。こんなに傷ついているみかげを放って置いていいのだろうか? 側に居てあげなくていいのだろうか?
 みかげは満面の笑みを浮かべる。多分、喜んで見送ってくれるだろう。それでいいのだろうか?
 澪はみかげが笑うたびに辛くなっていった。
 
 そして、出した答えは、
 
 半年間休学する。そして九月からの新学期に出ると言う答えだった。
 みかげは大いに反対したが、その顔は嬉しそうだった。
 そして半年後、澪はフランスへと旅立った。
 

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