クリスマスの妖精は?

 新雪を踏む音。吐いた息の割れる音。寒さよりも、感動を与えるまだ誰も踏んでいない白銀の世界。
 彼女の名前は「森沢 奏」。VOISEの中で一番の年下で、澪の妹である。年は高校生。何というアバウトさ。
 性格は至って真面目で、素直で、可愛い。多少みかげに感化されたらしい後もあってか、すねるときもあるが、それがまた可愛い。
「綺麗。」
 感嘆詞がやっと出てきた。それ以外浮かばない自分に、必死で感嘆詞を思い浮かばせようとしていたが、結局これしか浮かばなかった。
 みかげをクリスマスどっきりと題してみんなで祝った後、奏は約束通り、徹の腹違いの弟である双子と、彼らの家の所有物である別荘にやってきた。
 藍住と言えば名の知れたかなりの金持ちで、そう言えば、和矩も、両親揃って会社の社長ではなかっただろうか? とにかく、この話に金の苦労は無いらしい。
 だが、多少の金持ちがそうであるように(そうなのだろうか? それは偏見と見なした方がいいのではないだろうか? とにかく、話を進めよう)彼らの親とくに父親はその偏見通り、性格が底意地悪い。
 ただ、奏は三男の颯馬の友達として別荘に来ているので、あえて波風が吹かないが、長男である徹の彼女(まだ奏は見たことはない)などは、彼女の父親を首にさせようとまでしたらしい。
 だが、そうしても徹は家を継ぐ気はない。そうなると双子の弟にその矢が向き、櫂馬が今はその餌食になっている。
 その所為か櫂馬は家では機嫌が悪い。その逆に颯馬は外で機嫌が悪い。ように言われる。が、奏の側に居るようになって、変わったようだ。
 奏は凍った池の水面を覗く。
「落ちるぞ。」
 奏が振り返ると、ゴールデンレトリーバーの【ちび】を連れた颯馬が立っていた。
「おはよう。」
 颯馬は寒そうに口をマフラーに隠す。ちびは颯馬から放され勢いよく氷に走り込んで、止まらず滑っていく。奏がそれに大笑いをする。
 颯馬は近くの切り株に座り、笑っている奏を見上げる。
 どういった経路だっただろうか? 初めてあったのは、奏が高校受験でやって来た初日のバスでのことだ。
 その割りに軽そうな荷物を持っていた。そこしか隙間がなかったから、颯馬はそこに立った。奏の座っている隣りに。
 降りるから立ち上がった奏は、人に押されて颯馬とぶつかる。それが交わした最初の言葉「ごめんなさい。」
 そのまま流れのままに二人はそこで降りた。降りてなお、一緒に気が引けたのか、奏は再び謝った。それが、どうしても、動転を誘い、つい、つい、思ってもないことを言ってしまう。
「そんな親切を絵に描いてると、騙されるぞ。」
 颯馬は走った。じゃないと、じゃないと? これが一目惚れってやつで、颯馬はそんなものを簡単にするやつだったのかと思い知らされた。そう思ったら、足は止まり、振り返ったら、もうすでに奏の姿はなかった。
 落ち込む颯馬に運命の女神はどうしても二人を会わせたいようだった。
 再会はフランスだった。
 高校合格の祝いとして親からもらったフランス旅行。旅行好きで、フランスに住んでいる祖母の家に向かった。
 コンコルド広場横のビストロで食事の後、散歩をしていた颯馬と祖母の前に奏が走ってきた。あのときとが逆に長い髪を垂らし、スカートを履いていた。すぐに解ったが、どうしても隣人の反応が気になって、すぐに返事ができなかった。
「逢えて良かった。あのときは、ごめんなさい。気分害したんでしょ?」
 奏は再び謝った。そうじゃない。ってどうして言えないんだろうか? 祖母に訳を話した後、連れであるみかげ達とはぐれた奏をホテルに送れば、みかげ達はみかげ達で、パリに来て一度も祖母の家に寄りつかなかった櫂馬が家に連れていったという。
 そこで初めて名前を知った。日本に帰れば、同じ学校だったし、同じクラスだったし。で、颯馬と奏の間はかなり親密だと思う。
 でも、今時の子がするような、キスやセックスを易々できる奏の雰囲気はない。颯馬だって、それを望んではないが、でも、もう少し側に居てもいいかなとも思うが、でもそれは、口に出せない。
 最初に逢って、先に謝られた身としては、それを逆転などできないのだ。ただの意地と見栄だ。
「ねぇ、颯馬くん。」
 奏がちびに笑いながら、颯馬を振り返って、ポケットから小さな包みを出した。
「一日送れたけど、プレゼント。」
 颯馬は奏を見上げる。朝日の、雪や霜の乱反射した光が奏を包み、おやおや、美化とはいいご身分だ。奏はまるで冬の妖精じゃないか。
 ここまで来ると自分は病気じゃないかと思ってしまう颯馬を余所に、奏は颯馬に包みを渡す。中身は手作りの人形で、この寒空の下半袖を着たサッカー少年だった。
「俺?」
「の、つもり。見えないけど。」
 颯馬は鼻で笑い「ありがとう。」と顔を上げる。
 奏の微笑みに、ちびのでかい身体が飛びつく。颯馬はちびをはがし、二人は別荘に戻った。
 ほんの少し、また距離が近くなった気がする。それだけで十分ではないか? これから先、長いんだし。





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