みかげと一緒

「みなさん、こんばんは、相川 翔流(あいかわ かける)です。今日も、今宵の一時を私と一緒にお過ごしください。では最初の曲、アリッサ・メロウで「トワイライト」。」
 offになるランプ。長い髪を緩やかに編み込んだだけで、化粧っけも無く、お洒落な服を着ているわけでもない。
 彼女はこの【FMらじお】の人気DJの一人なのだ。本名「達端(たちばな) みかげ」年齢はそれなりに大人と、記憶していただこうか。
 彼女がここで働くに至っては随分と混みいった理由があるので、それは省いて、それを省くと言うことは、以後出てくる人間関係に多少の影響があるので、簡単に人間関係をざっとまとめて書こうとしよう。
 彼女の声を気に入って、今ではこの番組のディレクターもしている、人気DJ伊吹(いぶき)はにこやかに曲の間みかげに話しかけている。
 つまり彼がみかげの声を気に入って、DJに推薦した本人なのだが、彼にみかげを紹介したのは、「では、早速耳寄りな情報。私の友達である、ヒーローとトーイがパリコレに出たのはこの前にも言いましたよね? 彼らは今度はヨーロッパコレクションというのに出るんですって。テレビでもするらしいので、見てあげてくださいね。」
 みかげの最初の話題がラジオから流れる。
 伊吹にみかげの声を紹介したのは、パリを拠点としてモデル活動をしているヒーローこと「神崎 宏樹(かんざき ひろき)」で、その親友であり、みかげを最後には謀略の後DJにさせたトーイこと「藍住 徹(あいずみ とおる)」彼も宏樹と同じくモデルである。
 二人は高校卒業と同時にパリ、N.Yに渡り。そこでモデルというチャンスを得て、今では世界的に有名なモデルにまでのし上がっていった。
 そして彼らが好んで出るデザイナーが、みかげの親友で「森沢 澪(もりさわ みお)」である。二人の付き合いは高校からで、みかげが上京してきてすぐに同居を始めた仲でもある。
 澪のスペシャルスポンサーである松浦企画会社の副社長「松浦 和矩(まつうら かずのり)」。彼は、宏樹達とは、和矩の兄「良秋(よしあき)」の親友だった縁と、偶然と、バイクで知り合った友達である。そして、和矩はみかげを中学の時から思いを寄せていた。
 話がややこしくなるので、少し話を進めながら説明を入れていこう。
 みかげは番組を追え、打ち合わせを済ませてラジオ局を出た。空には冬の星が瞬いている。寒さに襟を立て、白く音のする息を吐いて一歩歩くと、そこへ、見慣れた車が入ってきた。
 年末で、仕事が忙しくて、この一週間というもの間見なかったその姿に、みかげは満面の笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
 停まった車のドアを開けてみかげは第一声声をかけ、中に滑り込む。
「ん? 元気ないようだから、早く帰ってやれって。」
「お母さんが?」
 運転手である、和矩は頷いた。みかげは嬉しそうに微笑みながらマフラーを解く。
 一緒に住み始めてすでに何年もの月日が流れた。その間の苦労は苦労ではないと、母親にどやされそうだが、それでもそれなりに苦労した。
 でも、そんな苦労も、横にいる和矩も居るし、親友の澪も居る。そして宏樹も徹も。そして、澪の妹の奏(かな)もいる。
 この奏は、まだ高校生で、かなり年の離れた姉妹だ。澪に似て、美人だがそう言う自覚がない。ただ、澪よりは人当たりがよく、可愛い。何よりも可愛いことはいいことだ。とするみかげの意向通りの子である。
 そう、みかげは、和矩とも、澪とも、奏とも、宏樹や徹とも住んでいる。一体どんな家だ? と思うだろう。普通の一階の部屋数六戸のマンションの、二階部分を1Fにつぶした家に住んでいる。
 もともと和矩の母親名義の和矩の家で、一緒に住むようになった経緯も色々とあるので省略して、とにかく賑やかに暮らしていた。
 と言っても、先に書いたように宏樹も徹も、そして澪もそのほとんどを海外で暮らすことが多いし、和矩も会社に寝泊まりすることが多い。そのため、実質みかげと奏の二人暮らしに近い。
 そして和矩と、この一週間逢わなかったのも、勿論仕事が忙しいのだ。企画会社が何をするのかみかげは知らないが、それでも、旅行の手配や、企画、イベント、催し物。それらに属することで和矩は仕事をしているらしい。
「奏ちゃんは?」
 車が家に着き、家に明かりがないのを和矩が聞く。
「双子とね、別荘に行った。」
 みかげは車から降りてそう言うと、二人は二階への階段を上がる。
 双子とは、奏の同級生で、「藍住 颯馬(あいずみ そうま)」と「藍住 櫂馬(あいずみ とうま)」の双子。この双子、名字を見ての通り、徹の腹違いの弟である。
 もうここまで来ると笑ってしまう関係なのだ。彼らは。
 先に入った和矩が明かりを付ける。その後をみかげが続く。居間に行くまでは、風呂場とトイレと納戸の前を通る。そして居間の戸がある。
「澪もヒロもテツ(徹のこと)もみんな海外でさ。奏ちゃんも別荘だし、カズも仕事だと、ことしのクリスマスは一人かぁって、寂しかったんだよね。」
 みかげが後から声をかける。和矩は何も言わずに、明かりを付けないで居間の戸を開けて、みかげを先に行かす。みかげは何の疑いや、思考も無く中に入る。
 暗い部屋に明かりがついた途端鳴り響くクラッカーの音。みかげは目を見開いたまま固まり、現状情報を理解しようと一生懸命だったが、それを邪魔するように、みかげはその輪の中に腕を引っ張られる。
「澪?」
「みんなでね、内緒にしてたの。」
「今まで何処に?」
「事務所に泊まってたの。」
 澪はその綺麗な顔を悪戯っぽく微笑ませて言う。その後ろにいる宏樹と徹はシャンパンを開けて、台所に奏がケーキを取りに行く、それを櫂馬が手伝う。
 和矩が定位置であるソファーに座る。
「内緒にするの大変だったんだから。言いそうになるの。」
 澪と奏が笑いながら頷き合い、その計画をばらす。
 十二月に入ってすぐに決めたことらしい。みかげにあげるとぎっきりのプレゼントを全員で考えていたら、みんなが揃っていることが何よりだと思ったのだ。
 和矩の迎えでも十分だったのに。みかげは項垂れて、泣き出す。
 全員が黙る。
「お前が泣くと、調子狂う。」
 和矩の言葉に、みかげは顔を上げて微笑んだが、涙は流れる。
「ありがとうね。あたし、やっぱり、みんなが好き。」






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